代沢稲荷は開運・強運を呼ぶ尊天そんてんである吒枳尼眞天だきにしんてんをお祀まつりしています。白狐びゃっこに乗った天女のお姿をしており、そのお姿は古来より多くの信仰を集めてきました。

　歴史を辿ると、吒枳尼天（以下ダキニ天）信仰は、空海によって、密教と共に日本にもたらされました。ダキニ天は元々インドの夜叉やしゃ（鬼神）でしたが、日本に伝わると、密教の中心尊である大日如来の化身である大黒天に調伏ちょうぶくにされ善神として信仰されるようになります。その後日本の神道における稲荷信仰と習合し、食物を司る神である御饌津神みつけかみと同一視されるようになります。中でも、稲を始めとする五穀生産の神様である宇迦之御魂神うかのみたまのかみは特に有名で、当社でも御祭神としてお祀まつりしております。

ダキニ天は「その夢が叶う」とされるほどの大きな神通力により、宇迦之御魂神と共に江戸時代には「お稲荷さん」として、広く庶民に親しまれる存在となりました。そして、白狐に乗る天女のお姿をしたダキニ天像が、各地の神社や寺院に祀られるようになったのです。

しかし、明治維新の際に出された神仏判然令はんぜんれいによる廃仏毀釈はいぶつきしゃくによって、神社・寺院の仏像の多くが失われてしまいました。千年以上にわたり神仏習合という穏やかな宗教観を育んできた大和民族にとって、その大らかさが失われた時代でもありました。

　代沢稲荷のダキニ天像は、阿川家の屋敷神（邸内社ていないしゃ）だったことから、幸いにも廃仏の難を逃れ、現在も大切にお祀りされています。

　江戸時代から令和へ、吒枳尼眞天像は今なお、祈りを捧げることで運気を大きく上昇させてくれる尊天として、皆様の心に寄り添い続けています。