吒枳尼眞天とは

名店に捧ぐ、神様カレー

文・水野仁輔

 たまに会社員時代の夢を見ることがあるもう10年以上前に退職しているというのに。よりにもよって今回は、秋のネパールポカラでのトレッキング中に宿泊した素敵なお宿であった。旅のムードはぶち壊しだ。

 一方、この夏、僕はリアルに高幡不動のインド料理『アンジュナ』出勤した別にアルバイトをしていたわけではない。トレーニングを兼ねて3ヶ月間、毎週欠かさず高尾山を歩いたが、その帰りに客として寄ったのである。

 朝から3時間ほど山を歩き、帰りがけに途中下車。ちょうど開店時間になる。店主に挨拶をして着席。注文するメニューは「タンドーリセットでマトン&キーマ」めているどんな気分であろうとこれ以外は頼まない。

 サラダを平らげてからライスにマトンカレーとキーマカレーを無造作にかける。2種のアチャールを混ぜながら食べ進めるのが好きだ煮込まれたマトンカレーのとろりとしたソースを見つめ、キーマからにじみ出る肉汁にうっとり。

 アクセントとして時おりタンドーリチキンとシークカバブを口に運ぶ。深みのある香りが口の中を駆け巡り、疲れた体に優しい刺激が染みわたっていくのがわかる。ああ、こんなに心地よい仕事があっていいのだろうか。

 山歩きとインド料理。特定のカレーを食べるとき、前後も含めたルーティーンワーク仕立てることでおいしさ増幅ることを僕は学んだ。冬は長期休暇。来年もまた春が過ぎたら通い始めるつもりでいる

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