他が己に従うことを欲し、己が他に従うことを欲せず。(『宗秘論』に伝わる一節)
空海(弘法大師)
写真:京都・東寺 八島社殿
年が改まり、会社も学校も家庭も、またそれぞれの歩みが始まります。
人と人が動けば、どうしても起こるのが行き違い。相手の“よくないところ”ばかりが目につくのも、人の心の常です。
私が京都・東寺に参りました折、弘法大師のお言葉をいただきました。その中に、「負けて勝つ」という趣旨の教えがあり、胸に残りました。
勝ち負けにこだわるほど、心は尖り、言葉は強くなります。けれど、ひと呼吸おいて一歩ひく。耳を傾ける。譲れるところは譲る——その“静けさ”が、結局は場を整え、運を守ってくれるのだと感じたのです。
なぜ、代沢稲荷で空海なのか、と思われる方もいらっしゃるかと思います。代沢稲荷は、仏教の尊天・吒枳尼眞天 と、神道の 宇迦之御魂神 をあわせてお祀りする、神仏習合のお社です。吒枳尼眞天は密教の流れの中でも大切にされてきた尊天として語られ、祈りの作法もまた「まず心を整える」ことから始まります。
ゆえに、空海の言葉は、代沢稲荷の願い、すなわち 祈りで心を整え、日々を穏やかに進める という歩みに、自然につながってまいります。
揉めそうになったとき、すぐに相手を正そうとせず、まずは一つだけ。今回の心得は、「私のほうに直せる所はないか」と自分に問いかけること——「負けるが勝ち」を小さく実践することです。
いったん受け止めて、言葉を和らげて返す。“小さな勝ち”より、場と縁を守る ほうを選ぶ。相手を変えるより先に、自分の心を整える。その一歩が、のちの大きな安らぎにつながります。
祈りで心を整え、静けさで縁を守る。
(代沢稲荷)
〖人物紹介〗空海(弘法大師)
空海(くうかい/774–835)は、のちに弘法大師と称えられる真言密教(真言宗)の開祖です。唐(中国)に渡って密教を学び、帰国後は高野山を開くとともに、823年に東寺を託され、密教の根本道場として整えました。
代沢稲荷 宮守 阿川峰哉






