吒枳尼眞天とは

名店に捧ぐ、神様カレー

文・水野仁輔

 なんともないようなカレーを、無性に食べたくなるときがある。決してまずくはないけれど、とりたててうまいわけでもないカレー。さほど欠点は見つからないが、さしたる取柄も浮かばないカレー。でも、なぜか忘れられないカレー。僕にとっては、『C&Cカレー』というチェーン店がそれにあたる。

 京王線と井の頭線が交差する明大前という駅の最寄りに、11年ほど住んでいた。改札を出たところ、駅の敷地内にポツンと、そのカレー店はあった。仕事終わり、週末の夜、電車を降りたあとに数えきれないほど立ち寄った。必ず鶏のから揚げとゆで卵をトッピングして食べる。ほかは頼んだことがない。

 甘さと辛さのバランスがよく、コクと舌ざわりが適度で、香りは穏やか。目立たない優等生のようなカレーである。「さあ今日もやるぞ!」という始まりの味ではなく、「おかえり、今日もお疲れさま」と、1日の締めくくりに食べるのにちょうどいいカレーだった。

 チェーン店のカレーというのは、どこもたいていそんな要素を持っているものかもしれないが、ほかではなく『C&Cカレー』だけがその役割を果たしてくれるのは、一種の郷愁が成すものなのだろうか。アブノーマルでエキセントリックだった自分のカレーライフを、定期的に矯正してくれる存在だったのかもしれない。

 久しぶりに訪れ、なんだかしみじみと噛みしめてしまった。なんともないようなおいしさがもたらす喜び、変わらないことへのありがたさ。これからは定期的に訪れたい。

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