心に響く名言・格言
足るを知る者は富む
老子
情報があふれる現代は、知らず知らずのうちに心が疲れやすい時代です。
とりわけSNSによって、私たちは他者の暮らしや成果をいつでも目にし、「比べる」という行為を簡単に行えるようになりました。比較は焦りを生み、焦りは不足感を生みます。疲れの多くは、ここから始まります。
老子の言う「富」とは、金銭やモノの多さではありません。
いま持っているもの、いまの環境の中に、すでに幸せの条件が十分にあると気づくこと。それが「足るを知る」。そしてその気づきが、心の中を満たし、穏やかな豊かさへと導く。老子の言葉は、心の平穏を取り戻すために、いまこそ生きます。
なお「足るを知る」は、「分をわきまえる」とは違います。
「分をわきまえる」は外側の基準(立場や世間)に従って線を引く言葉ですが、「足るを知る」は内側の基準(自分の心)を整える言葉です。あきらめや自己卑下ではなく、むしろ心の足場を定める教えと言えるでしょう。
老子はまた、「強めて行なう者は志有り(努力を続ける者は志を成す)」とも説きます。
「足るを知る」とは、単に現状に満足して何もしないことではありません。欲望に駆られず、驕らず、静かに努力を積み重ねる。その姿勢と結びつくとき、言葉はさらに深く働きます。
今日からできる小さな実践
① 比較を増やす情報から、少し距離を置く
まずは「朝起きてすぐ」「寝る直前」のSNSチェックをやめ、代わりに10分だけ“自分の時間”を先に置きます(白湯を飲む/深呼吸/今日やることを一行メモ)。見るなら「昼休み5分」「夜15分」のように時間枠を決めるだけでも、比較の連鎖は弱まります。
② 「すでにあるもの」を三つ数える(1分)
ノートやスマホのメモに、今日すでに恵まれていることを三つだけ書きます(体調が大崩れしていない/温かい食事/支えてくれる人/家が守られている/季節の空がきれい等)。“特別な幸運”より、日々の土台を拾うのがコツです。
③ 志に沿う「小さな一手」を毎日ひとつ
5〜15分でできる一歩を決めて実行します(机の上だけ片づける/本2ページ/お礼を一通/ストレッチ3分)。「心は足りている、行動は積み上げる」を毎日にすると、驕らず、欲にも振り回されにくくなります。
足りないものを追うだけでは、心はいつまでも渇きます。
足るを知り、志を持って歩む。
そこに、本当の豊かさが宿ります。
【人物紹介】
老子(ろうし)は、古代中国の思想家で、『道徳経(どうとくきょう)』の著者として伝えられる人物です(生没年などは諸説)。「無為自然(むいしぜん)」無理にねじ伏せず、自然の流れに沿って生きるという思想を説き、「足るを知る者は富む」「柔よく剛を制す」など、欲望や競争に揺れやすい心を静かに整える言葉を残しました。外側の評価や所有ではなく、内側の満ち足りた感覚を重んじるその教えは、東アジアの思想や宗教観に長く影響を与え、日本でも禅や武士道の精神文化と響き合いながら受け継がれてきました。






