名店に捧ぐ、神様カレー
褒められるのが苦手だ。どうリアクションしていいか困ってしまう。「過大評価だ」とか「買いかぶりだ」とかいう気持ちが入道雲のごとく現れ、嬉しい気持ちを真っ白に消し去ってしまう。だから放っておいてほしい、と思う。
ところが、他人のこととなると自分もそうはいかない。下北沢の「ムーナ」について語るとき、僕はつい力がこもってしまう。「過小評価されているんじゃないか」とか「見くびってもらっちゃ困る」とか、勝手にそう思い込んでいるからだ。
店主の諏訪内君が作るチキンカレーを昔から気に入っている。ひと言でいえば滋味深い。軽やかでスルスルと食べやすい味わいだが、しみじみと「うまいなぁ」と思う。材料を引き算し、技術を足し算する。味は加えるものでなく生み出すものだと考える僕にとって、理想とするカレーの姿がそこにある。
不思議なバランスで成り立っているカレーで、「カレー粉なんですよ」なんて具合に特別なスパイスに頼ったりしないくせに「水を硬水に変えました」とか「季節ごとに油を選んでいます」なんて具合に微妙な調整を欠かさない。飄々とした態度に実力が見え隠れするのだ。
失礼な話だが、あのチキンカレーについて自分と同じくらい熱を込めて話す人を他に知らない。もし誰かに「それがあなたの好みだってだけの話よね」なんて言われたら、「俺くらいにならないとあの味はわからないかもなぁ」と強がってしまいそうだ。いずれにせよ、失礼な話ではあるけれど。