吒枳尼眞天とは

ワタナベマキの
心と体に届く 神さま料理

料理・ワタナベマキ

六月

梅雨時のいわし


いわしの梅煮


あっという間に一年の折り返し、6月ですね。『心と体に届く 神さま料理』の第三回は、旬のいわしを使った煮魚「いわしの梅煮」をご紹介します。

鬱陶しい気分になりがちな時季ですが、実はこの梅雨の時季に旬を迎える魚はたくさんあるんです。その代表格が、いわしです。いわしは世界で広く食されている魚で、日本でいわしといえば、ニシン科のマイワシとウルメイワシ、カタクチイワシ科のカタクチイワシの総称。鮮魚で料理に使うほか、煮干しやめざし、ちりめんじゃこなどに加工されています。料理に使うのは主にマイワシ。一年中出回っていますが、特に旬を迎えるこの時季は “梅雨いわし”“入梅いわし”とも呼ばれ、格別のおいしさです。なぜこの時季のいわしがおいしいのか。それは諸説あり、梅雨と関係があるともいわれています。梅雨に入ると、長雨によって山の土からしみ出た栄養が川に流れ、やがて海に達します。その栄養でプランクトンが増え、それを餌としている魚の脂がのるのだそうです。いわしのほか、いさき、きす、はもなども同様に、「梅雨の水を飲んでおいしくなる魚」と表現されてきました。

さて、今回の「いわしの梅煮」は、梅雨で鬱陶しくて手の込んだ料理は少し面倒……、というときにもピッタリな、簡単でとてもおいしい魚料理です。つくるポイントは、第一に目が黒くつややかで、まるまると太り、ぴかぴかと光っているような鮮度のいいいわしを選ぶこと。そして、お腹の内側まで冷水でよく洗うことです。「鰯七度洗えば鯛の味」という食のことわざをご存じですか? いわしは青魚の仲間で、鮮度が落ちるのが早いのも特徴ですが、冷水でよく洗えば臭みもやわらぎ、身が締まっておいしさが増します。これは煮魚にする場合でも欠かせない、大切な下ごしらえです。また、梅干しやしょうがと煮るのも、特有の臭みをやわらげる工夫。梅干しの酸味で脂ののったいわしもさっぱりいただけますよ。

そういえば、西日本など一部地域には、旧暦の大晦日にあたる節分に、焼いたいわしの頭を柊に刺して戸口に飾り、その匂いで厄を払う「焼嗅(やいかがし)」などと呼ばれる風習が伝わっています。広島県の住吉神社では、節分になんと1000匹ものいわしを焼いて厄払いをする神事が執り行われているそう。いわしで厄払いとは、まさに海に囲まれた日本ならではの神事ですね。

 

作り方

【材料】(4人分)

・いわし* 4匹(400g)

・梅干し 2コ

・しょうが(薄切り) 15g

・昆布(10cm四方) 1枚

・塩 小さじ1/2

A

・水 カップ1

・酒 カップ1/4

・みりん カップ1/4

・しょうゆ 大さじ1と1/2

・砂糖 小さじ2

・酢 小さじ2

*うろこがあれば、尾から頭に向けて包丁でこそげ取る。

【手順】

いわしの下ごしらえをする

❶ いわしは頭を胸ビレごと切り落とす。腹の部分を斜めに浅く切り落とし、包丁の先で内臓をかき出して除く。ボウルに張った冷水のなかで腹の内側までよく洗い、水けをペーパータオルで拭く。塩を全体にふって15分間おき、水けを拭く。

いわしを煮る

❷ 昆布の表面を濡れ布巾で拭いてフライパンにしく。しょうが、Aを入れて中火にかけ、煮立ったらいわしを並べ入れ、スプーンで煮汁をかける。梅干しを加え、ひと煮立ちしたらアクを除き、オーブン用の紙で落としぶたをする。弱めの中火にし、時々煮汁を回しかけながら、汁けが少なくなるまで15分間ほど煮る。

 

ここがポイント!①

いわしは冷水のなかでよく洗うと、特有の生臭みがとれて、グンとおいしくなります。ただ、洗いすぎると風味がなくなってしまいます。数回冷水を変えて洗う程度にとどめるといいでしょう。

 

ここがポイント! ②

梅干しもおいしさの鍵。梅干しならではの酸味や香りがいわしの生臭みをやわらげ、全体の味を引き締めてくれるんです。減塩タイプや調味梅干しではなく、ぜひしっかりとしょっぱくて酸っぱい、塩分13~14%の梅干しを使ってください。


ちりめん山椒


もう一品ご紹介するのは、いわしの稚魚の加工品・しらす干しでつくる、ごはんのお供です。いわし(マイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシなど)の稚魚の加工品では、釜揚げしらす、しらす干し、ちりめんじゃこがおなじみ。釜揚げしらすは生のいわしの稚魚をサッとゆでたもの。それを軽く乾燥させたものがしらす干し。さらに堅くなるまで乾燥させたものがちりめんじゃこです。

一般的に「ちりめん山椒」はちりめんじゃこをゆでこぼして雑味を除き、調味料や山椒の実と一緒に汁けがなくなるまで煮ていきますが、今回はしらす干しで。私も以前はちりめんじゃこでつくっていたのですが、最近はしらす干しを使った、柔らかなちりめん山椒を好むようになりました。しらす干しは身が柔らかくて崩れやすいので、あまり混ぜないように煮て、汁けをとばしていくと美しく仕上がります。

爽やかな香気とピリッとしびれるような辛みの山椒の実が、しらす干しやちりめんじゃこと好相性。梅雨時季でも熱々のごはんが進むちりめん山椒は、いわば、小さな小さないわしの煮魚ですね。

【材料】(つくりやすい分量)

・しらす干し(またはちりめんじゃこ/身が小さめのもの) 70g

・実山椒(ゆでて下処理したもの) 20~30g

・水 カップ1/2

・酢 大さじ1

・みりん カップ1/4

・酒 カップ1/4

・うす口しょうゆ 大さじ1

❶ フライパンに分量の水、酢を入れ、中火にかける。煮立ったらしらす干しを入れ、20秒間ほどゆでる。ざるに上げ、水けをしっかりときる。

❷ ❶のフライパンをきれいにし、みりん、酒を入れて弱めの中火にかける。煮立ったらしらす干し、実山椒を加え、へらで時折り混ぜながら汁けが半分くらいになるまで煮る。

❸ うす口しょうゆを加えて弱火にし、汁けがなくなるまで煮る。

❹ バットに広げて冷ます。

※清潔な保存容器に入れ、冷蔵庫で約5日間保存できる。

 

ここがポイント!

しらす干しを煮る際は、へらであまりいじらないように。ちりめんじゃこより柔らかいうえ、ゆでこぼしているので、身が崩れやすいのです。へらを鍋底に差し入れて、上下を軽く返す程度で充分ですよ。

編集/遠藤綾子 写真/名取和久

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