ワタナベマキの
心と体に届く 神さま料理
心と体に届く 神さま料理
九月
秋のなす
翡翠なす
朝晩は少しだけしのぎやすくなってきました。『心と体に届く 神さま料理』の第六回は初夏から秋にかけて身近な果菜・なすを使った料理をご紹介します。
料理研究家という仕事上、日々さまざまな野菜に接していますが、なすは私にとって特別な存在。何を隠そう、大のなすびいきなんです。和食にはなすが主役の料理がたくさんありますし、これまで訪れた国々でも必ずといっていいほどなすの料理が存在し、親しまれていました。なす自体は淡泊なので和洋中エスニック、幅広い味つけに合いますし、炒めてよし、揚げてよし、煮てよし、焼いてよし、そして、熱を加えずに漬け物にしてもよし、と、まさに万能選手。さらに、初夏から秋までと旬の時期が長く、時期によって微妙に変化していくのも、食材として優れ、興味がひかれるところです。初夏の走りのなすは“茄子紺”とも呼ばれる濃紫色の皮が薄く、果肉も柔らかでみずみずしい。盛りになるとより水分が多くなり、皮が厚くなってなすらしい風味が出てきます。晩夏から秋の名残に入ると、果肉は引き締まり、風味がグンと強くなります。「秋なすは嫁に喰わすな」というおなじみの食のことわざのなすは、まさに今の時期のなすのこと。意味には諸説ありますが、「おいしい秋なすを嫁に食べさせるのはもったいない」と、秋なすが格別に味がよいことのたとえだという解釈が最も知られています。
今回の「翡翠なす」は、この秋なすでこそつくっていただきたい一品。皮の下に隠されていた翡翠のような透明感のある緑色と、おいしいだしをたっぷりと含んだ果肉のなめらかさ、なすならではの風味が楽しめます。しかも、上手に火を通すと果肉が美しい緑色になること、油と相性がいいこと、スポンジのように味を吸うことなど、なすの調理上の大きな特徴を生かした、シンプルながら奥深い料理なのです。つけ汁につけたら、ゆっくりと一晩味を含ませ、冷えたままどうぞ。揚げて皮をむいたなすを、おろししょうがとしょうゆでいただくのもおすすめです。
作り方
【材料】(作りやすい分量)
・なす 5本
A
・だし 200ml
・うす口しょうゆ 小さじ1
・塩 小さじ1/3
・揚げ油 適量
【準備しておくもの】
・氷水(大きめのボウルに作っておく)
なすの下ごしらえをする
❶なすはヘタを除き、包丁の刃先で2~3か所刺しておく。水に軽くさらしてざるに上げる。
揚げる
❷鍋に揚げ油を約3cm深さまで注いで中火にかける。180℃になったら、なすの水けを拭いて入れ、時折りなすを回しながら揚げる。箸ではさむと凹みがつくくらいになったら、取り出して氷水に入れる。
仕上げる
❸粗熱が取れたら手早く皮をむき、ペーパータオルに取り出して水けを拭く。
❹まな板にのせ、バットなどでおもしをして15分間ほどおき、しっかりと水きりをする。
❺深めの保存容器などにAを合わせ、❹を浸す。冷蔵庫に入れ、一晩おく。
ここがポイント!
しっかりと揚がっていると、スルスルと皮がむけます。注意すべきは、ここで水けを吸うとつけ汁を含まなくなってしまうこと。熱いのを少々我慢して、早めに冷水から引き上げ、皮をむきましょう。ペーパータオルを敷いたまな板やバットの上でむいてもいいですよ。
なすとじゃこの豆板醤炒め
もう一品は、がらりと趣を変え、濃いめの味つけでご飯が進む、なすおかず。わが家の初秋の常備菜です。
なすは淡泊な分、幅広い味つけに合うのも魅力の一つ。イタリアのシチリアではケッパーとオレガノとなすのタルタル、香川ではいりこといりこだしで甘辛く炒め煮にしたなすおかず、長野ではなすみそのおやきなど、これまで旅先でもさまざまな味つけのなす料理に出合ってきました。このなすとじゃこの豆板醤炒めは、おなじみの中国の調味料と合わせた、ピリ辛風味。中華料理でもなすはポピュラーな野菜ですね。
ちなみに、この料理ではしょうがを合わせて使いますが、風味を加えるだけでない理由があります。薬膳では、なすは体の中の熱を冷ます作用がある野菜とされています。そこで、体を温め、冷えを追い出してくれるしょうがを組み合わせると、料理全体のアクセントにもなって一石二鳥!というわけです。先に「秋なすは嫁に喰わすな」ということわざの意味に触れましたが、「体を冷やしてしまうなすを、涼しい秋に大切なお嫁さんに食べさせてはいけない」という意味もあるのだそうですよ。
作り方
【材料】(作りやすい分量)
・なす 5本
・ちりめんじゃこ 40g
・しょうが(せん切り) 1かけ分
・ごま油 大さじ2
・豆板醤(トーバンジャン) 小さじ2/3
A
・みりん 大さじ2
・酒 大さじ1
・黒酢 大さじ1
・しょうゆ 大さじ2
・ごま(白) 小さじ2
・塩 適量
❶なすはヘタを除いて一口大の乱切りにする。1~2分間水にさらしてから水けをきり、ペーパータオルで水けを拭く。
❷フライパンにごま油を中火で熱し、豆板醤を入れて香りが出るまで炒める。
❸しょうが、なす、ちりめんじゃこを加えて全体に油がなじむまで炒める。Aを加えてさらに5分間ほど炒め煮にする。
❹なすがしんなりとしたらしょうゆを加え、汁けがなくなるまで炒める。ごまを加えて混ぜ、塩で味を調える。
※保存容器に入れ、冷蔵庫で2~3日間保存できる。
ここがポイント!
豆板醤は多めの油でじっくりと炒めると、コクやうまみが増し、香りがたちます。具材はその後に加えましょう。なすは少し小さめに切ると早く火が通り、よく味がしみ込みます。
編集/遠藤綾子 写真/名取和久